さとびこ編集室日記|100年住みたいのは自然にも人にもやさしい地域

自然と人のつながりを地域に根ざして考える奈良発ローカルマガジン「さとびごころ」を編集する「さとびこ編集室」より、日々の活動のことやお知らせ、雑談を綴ります。 雑誌づくりを通して、自然にも人にもやさしいあり方をみなさんとともに考えます。

タグ:森づくり

4月に2回ほど、森歩きイベントに参加してきました。
ひとつは、森林に興味関心が高く、主に何らかのプロである人たちが対象。
もうひとつは、若者や一般の方たちが対象でした。
どちらも、講師はさとびでおなじみの久住一友さん。
Forester chicks-1

Forester chicks のための林業学校 2022-2023 現地講習より 久住くんの奥にいるのはコーディネーターの吉水純子さん(そう、53号まで連載をしていただいた吉水さんです)

Forester chicks-2

Forester chicks のための林業学校 2022-2023 現地講習より 久住くんの右にいるのはコーディネーターの佐藤浩行さん(そう、さとびでもおなじみの佐藤さんです)

わたしは普段は久住くんと呼んでいますので、以下久住くんと書くほうが書きやすいものですから、そうしたいと思います(^^)

久住くんとは、谷林業株式会社に就職するために奈良に移住したころから交流が始まりました。
谷林業に近い場所にあるカフェで、森を学ぼうという趣旨のトークイベントがあり、当時谷林業の社員だった久住くんが林業に就いた理由や、架線集材についてわかりやすく説明してくれていました。

そのとき聞いた、(さとび読者さんであれば、今ではみなさんも読まれていると思いますが) 家の近くの公園の木が切られたことがショックだったからというエピソードに、わたしのアンテナが立ったのです。経験的に勝手なルールがありまして、「昆虫少年はスジがある」というもの。久住くんは昆虫が大好きだったために、昆虫がたくさん集まってくる大好きな木がなぜ切られてしまうのか?憤りを感じたのでした。実際には理由があっての伐採なのですが、その時の悲しみと憤りは今の久住くんの核の中にあると思いました。
男の子は大なり小なり昆虫をとって遊んだ経験が(ある年代までなら)あると思うんですけど、とりわけ大好きだった人たちは将来、生態系を大事にするようになるのです。さとび関係でいうと、プロジェクト粟の三浦雅之さん、フォレスターアカデミー校長の藤平さん(さとびサポーターをしていただいてます。ありがとうございます)、久住くんもそう。

そのエピソードを聞いてからの後日、里山関係のイベントで参加者どうしとして遭遇したとき、わたしはもう「さとびで連載を書きませんか」と声をかけていました。久住くんは谷林業のSNSも担当していて、魅力のある文章を書く人だなあという肌感覚はありましたので、連載してもらったら「昆虫少年が林業を目指したのはなぜか」のところを伝えてもらえると思いました。それは、今の近自然森づくりにつながっています。久住くんにはその後も、折にふれて寄稿していただいてますので、まだお読みでない方はぜひ。

vol.47 特集 いつまでも豊な森(ちなみに佐藤さん、藤平さんにもご寄稿いただきました
vol.52 特集 森を選んだ生き方その後

久住くんの連載(旧さとびごころvol.22からvol.25)は、別途パンフレットに印刷しましたので彼の自己紹介パンフレットがわりに広がったことと思います(ということは、わたくし、奈良での久住くんのデビューには陰ながら貢献している?と勝手に自負しております)。

2つの森歩きイベントでは、どちらも久住くんが管理をしている里山が現場でした。アスファルトの道から歩いて入っていくことができる位置にあり、人の手が加わったゆるやかな道が通っていて、スニーカーでも楽に歩くことができます。森林というのは、たとえ里山でも、道が通っていなければ町の住人が歩くには辛く、危ない場所です。林業のための作業道や、昔の人が使った里道(りどう)が通っているから歩けるのです。大きな蜂や蛇がどこにいるか、わかりますか?もし出会ってしまったらどうしたらいいか知っていますか?久住くんは知っています。それらも教えてもらい、わたしたちの安全や楽しさに配慮しながら案内してくれるんですよね。

そしてそれらの道は、ふだんは私有地の中にあり、誰でも入っていけるところではありません。その地域の人や、そこで仕事する人のための道なので、国定公園などにある観光向けに整備された遊歩道とは違うのです。

そんな特別な道、そして美しい森の中の道を、久住くんの森案内を聞きながら歩くんです。
ここにこの木があるのはなぜか。この道があるのはなぜか。
この木を切った理由は何か。この木はどんな性格をしているのか。
この森を管理するようになった経緯は何か。
初夏の新緑に包まれながら、「へーーーーっ。そうなんだーーーー!」の連続を味わいながら。

2つ目のイベントでは、伐採の実演もしてもらえました。
当然ながら「切る必要のある木」がモデルです。すでに枯死していて、伐採する必要のある木でした。参加者のほとんどは、伐採現場を見るのは初めてでしたので、離れておかないと危ないことを教えられ、木が倒れておいくスローモーションのような様を見届け、切り株に触ったり匂いを嗅いだり、特別な経験となりました。 

ひらく学校-1
切り株の下からカブトムシの幼虫が。こんなにおっきいんですね!

ひらく学校-2
ゆるゆる歩くだけなのに、楽しい。

ひらく学校-3
草原から奥山へ、植物の遷移について話す久住くん。植物は苔の仲間から草へ変わり、やがて日光の好きな木(陽樹)が育ち、その下から日陰の好きな木(陰樹)が生まれ、ついには陽樹と入れ替わります。

ひらく学校-4
成長したイタドリ。春先の雑草キッチンセミナーで若芽の段階のイタドリを学んだので、成長した姿を見るのも面白かった。森歩きしながら「おいしそう!」を連発するわたしでした。森の中のゆるやかな日陰では、葉のやわらかい雑草が育ちます。食材としは、これが美味しいのです。

開く学校-5
久住くんが上牧町で管理しているのは「宝蔵院流高田派槍術第二十二代流派代表」からの依頼で、槍になる木を育てる森。奈良は
宝蔵院流の伝承地のひとつです。

最後には、スイーツとお茶があったり、またお弁当を食べたりもあります。これが重要!これが楽しい!多少の疲れを癒しながら、参加者でゆるりとおしゃべりを交わすひととき。いわゆるシェアの時間といいますか。。。イベントのエピローグ。その一日の体験が思い出に落とし込まれていきます。

こんな森歩きをわたしはずっとずっとしてみたかった。

そもそも奈良型作業道の取材をした2016年ごろからずっと、「こんなに素敵な道を、ただ歩くためだけのイベントをしてみたい」としょっちゅう口にしていました。いや、実際には「したらいいやん。してほしいなあ」などと、人様に依存する言い方でございました。まだまだ、さとびで主催するようなパワーがなかったのです。もしかして、今だったら何人か声をかけたら実現できるかもしれませんね。

さとびこの森歩きも、いつかできたらいいなあと思います。
(その時は、ぜひとも久住くんにお願いしたいと思います) 

久住くんの森あるきに参加した人は、みんな満足そうで、楽しそうでした。もしかしたら、この人は、森林管理の仕事よりもこっちが忙しくなってしまったらどうしよう!といらぬ心配をしてしまいそうになります(笑)。でも、これもひとつの「森の仕事」なのです。木を切るだけが仕事ではなく、森林が豊かに健康に維持されていくことによって、森で働く人にとっても、林産物を購入する人にとっても、環境(それは人や社会に益すること)にとっても、調和のとれたいい結果を生み出していくために、多くの人に森を好きになってもらうことも大切な仕事と言えます。

フォレスターとは、森と人をつなぎ、森も豊かに人も豊かにしていくプロフェッショナル。
久住くんはそれを体現する人になりつつあります(もうなってるかも)。


森あるきその1
森に学ぶ Learn from the forest
~ Forester chicks のための林業学校 2022-2023 ~ 現地講習 
開催場所=大淀町、明日香村など
主催=森に学ぶ講座実行員会 からす組(プレスリリース


森あるきその2 
<木を伐るを観る ~森ある暮らしのお話~>
開催場所=王寺町、上牧町
主催=ひらく学校 

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ゆたかな森ト

次号は秋号なんですけど、まるで夏号に似合いそうな美しい緑の写真ですね。今回の特集のトップ画像はこちらを使いました。高くそびえる針葉樹。その下の空間に生き生きとした様々な木々。とても気持ちのよさそうな森ですね。

さとびをご愛読くださっている方には、本誌が森関係の記事が多いことはご承知のことかと思いますが、いつにもまして今回は、森だらけの号になっています。

特集を増ページし、連載をひとつお休みして、森の豊かさについてゆっくり考えました。

森林は、その居心地の良さや美しさにおいて、わたしたちにとってとても魅力的な場所ですが、
それ以前に、日本の気候風土を作るもとになっている、国土そのものと言えるものと編集部は考えています。人間でいうと肉体。土地は筋肉、水は血液。。
「健全な肉体には健全な魂が宿る」と言いますが、森林が健全でいられるかどうかは、とりわけ今重要なことだと思えてなりません。 今、もしかしたらですけれど、森林がどうなるか危ない時でもあり、だからこそ気づいて立ち上がる人たちよっていつまでも豊かな森へ続く道筋が生まれてゆく時なのかもしれないです。

毎年のように報道される集中豪雨や土砂災害。自然だから仕方がないと思われがちな事象にも、人災の影が見え隠れします。これらも、わたしたちが森を忘れ、知識から遠ざかったことによって、どうあればよいのかがわからなくなってしまったことと、遠いところでは関連があると思っています。


読者の多くの人は豊かな森が未来にわたって持続してほしいと願う人が少なくないことでしょう。
では、そのために木を切るべきなのか、切らずに残すのがいいのか、
木を使いましょうというキャンペーンで提唱されるその木はどこから来ているのか、
人間による森への介入はどんなふうであれば望ましいのか、
情報がたくさんあるようで、案外よくわからないまま、、、ということはないでしょうか。

いつまでも豊かな森とは?
さとびがご縁を結んでいる3人の専門家に寄稿をお願いしました。

一人目は、佐藤浩行さん。
佐藤さん

国内8170ヘクタールの自社有林の管理を行う森林管理のプロです。自然から収奪するだけの林業ではなく、環境をより豊かにしたい。けれども林業という産業として成り立たせたい。この課題に、自然に近い森づくりをすることで向き合ってこられました。
そもそも森って何?
林業って必要なの?
どんな森づくりを求めているんだろう?
基礎的なところに立ち戻りながら、森林に興味を持ち始めた人に対してもわかりやすく、解説していただいています。海外や全国にわたる幅広い知見に立って、奈良県フォレスターアカデミーの講師としても後進の指導に情熱を持って取り組んでおられる人です。

二人めは、その奈良県フォレスターアカデミーの校長先生でもある藤平拓志さん。
fujihirasan

vol.42の特集「美しい森」でも寄稿していただきました。そのときは、校長先生になられるとは予想もしていませんでしたけれど、学校の設立に大変尽力されていました。
さとびは奈良県のPR雑誌ではございませんが、今回のアカデミーは、誌面で問いかけてきたことと多いに重なるコンセプトを軸に設立されているものでしたので、この機会に、アカデミーの校長先生である藤平さんの思いや、なぜ今フォレスターなのか?アカデミーが考えているフォレスターとは何なのかについて、ご自身の「人と自然の関係性」についての問題意識にも触れながら、語って(書いて)いただきました。

最後に、古い読者の方であれば、この方の連載や記事をご存知かもしれません。久住一友さん。
久住さんプロフ

林業や森林公園の仕事を経て、谷林業(ほら、ドタバタ奮闘記を連載してる谷さんの会社です)に入社。そこでの学びをもとに、2016年から独立されました。その後まもなく、森ある暮らしラボを開設。森と人との繋がりを日常化するには?を考え続けている人です。大きな資本が投じられているのでもなく、公務員でもなく、個人事業主としてのフォレスターならではの、ライフミッションに通じる森づくりのお話(原稿)に耳を傾けてみてください。

 
丸坊主にならない森林。土砂災害を起こしにくい森林。心が洗われるような気持ちのいい森林。
いつまでも豊かな森について、いっしょに考えてみませんか。
健全な国土に、日本人の魂は宿ります。

vol.47号、やや文字たっぷりの特集になっておりますが、ゆっくりと読んでいただければ嬉しいです。


PS;特集では触れませんでしたが、参考文献を。
『林業がつくる日本の森林』 藤森隆郎 著/築地書館 発行/初版2016年


持続可能な森林管理のために目指すべき森林の姿は、「構造の豊かな森林」であるという結論にたどり着く。


著者紹介/1938年京都市生まれ。京都大学農学部林学科卒業後、農林省林業試験場(現在の森林総合研究所)入省。森林の生態と造林に関する研究に従事。農学博士。 


これまでのvol.47 紹介






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2018年の1月に発行したvol.32(ちなみに特集は地酒で味わう奈良)の中で
森林からはじまる村づくりを決意した若者を紹介したことがあります。

vol.32北さん森林からはじまる村づくり
https://satobigokoro.org/archives/819 




本誌では、生態系の豊かな自然の上に、初めて人間の文明も成り立つと考えてまして、
日本の自然を特徴づけ、独特の風土を生んでいる源は森林であると考えています。
その森林を支えてきた林業が衰退し山村の人口も高齢化と減少を続けています。 
そこで、林業界以外の人たちに、広い意味で森に関心を持っていただきたいとの思いから、
森に関する記事は毎号掲載しています。

そんな中で出会ったのが、上記の記事に登場してくる下北山村でした。
これ以来、北さんとは友交が続き、ほぼ毎月のように訪れています。

取材当時の北さんは、村役場の職員として自伐型林業に注目し、林業に関心のある地域おこし協力隊を募って活動を始めようとしていました。
そして、そんな彼らから「ユンボも動かせないような人に言われてもなあ」と、言われないためにも、ライフワークとして林業に取り組もうとしていました。
まだ、薪を割ってみた、くらいでしたけれど。

あれから3年。 

思ったようには進まないことのほうが多かったかもしれません。
林業から離れる人、村から去っていく人もありました。

その間に、北さんは猛烈に林業について学びました。
さとびの読者であれば、ご存知のはずの岡橋清隆さん(vol.42特集でインタビュー)や後継者である岡橋ー嘉さん(vol.25企画記事で紹介)を村の取り組みとして指導者に迎え
自伐型林業の代名詞ともいえる「壊れない道作り」のレッスンを開始。



自伐型林業 小さな林業とも言われ、環境負荷が少なく、大きな資本を必要としない生業としての林業。作業道を切り開きながら支障となる木を伐採し、出材したり道作りの素材として自然に返します。

ある日、「僕、山を買いました」というのです。
運良く、そのような巡り合わせがあり、手続きを経て、自宅の近くの山を購入することができました。
その山に道を通すことが、今彼の週末の活動になっています。
村に来たついでに師匠や友人が手伝ってくれることもあります。

わたしは、購入したばかりの森を見せてもらったことがあります。
捕まりながら歩かないと危なっかしい斜面に、かつて植林され、放置された杉や檜が立っていました。
さらなる昔にはどんな使い方がされていたのか、
あちらこちらに(山水を引いたようにも見える)石積みの跡もありました。

あの森はどうなっているんだろう。

そう思っているわたしの気持ちが通じたかのように、先日村を訪問したとき、案内してくれました。
よじ登るようにしか歩けなかった斜面に、踏むとやわらかい土の感触のある道ができていました。

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自伐型林業で採用されている作業道「壊れない道」は、なめらかで、スニーカーでも歩けます。かつて、岡橋ー嘉さんに案内してもらった道を思い出させる「歩きたくなる道」ができつつありました。

道作りは、一歩間違えれば土砂崩れの原因になるかもしれません。この山の下には集落があります。
ルートの選び方、伐採する木の選び方と使い方、残す木の選び方、水の流れへの配慮、法面の処理、採算性、、。学んできたことを自分の山で実習です。仕事にもつながり、楽しくもある週末フォレスター活動。

わたし「この道ができたら、上まで歩いてコーヒーを飲みながら、しばらくそこにいたいわ」
北さん「コーヒーは鉄板ですよね」

「僕、山を買いました」の道作りも、森から始まる地域づくりも、まだまだ途中段階です。
いっしょにコーヒーが飲める日を楽しみにしています。

この森は私有地ですので、みなさんに「どうぞおこしください」とは言えませんが…
若い世代が地域づくりを夢見て林業に取り組むひとつの風景として
ご紹介いたしました。

この日は、ほったらかし家というゲストハウスに泊まりました。
その話は、また別の記事に。 

 
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