32号の特集「地酒で味わう奈良」の監修でお世話になった天理市の登酒店社長、登さんと、
取材させていただいた杉浦農園ガンバファームの杉浦さんが
第61回のらマッチ勉強会の講師として登壇され、行ってまいりました。
30名近い参加がありました。(2月18日/ぷろぼの福祉ビル=奈良市にて)
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さとびごころ32号コンテンツ

最初に登壇された杉浦さんは、細身でもの静かな方。「話すことは得意ではない」と前置きがありつつも、さとびごころで紹介しきれなかった部分も含めて詳しくていねににお話しくださいました。

まずはご自身の紹介、酒米として秋津穂(奈良県産の飯米)を栽培するようになったいきさつ、そしてその秋津穂をあえて無農薬で栽培し、イベントとして街から人を募って手伝ってもらう「秋津穂の里プロジェクト」のお話。そのようすを写した写真がスライドで紹介されたところは、紙面ではなかなか伝えきれなかった部分でした。

ちなみに、御所には秋津という地名があります。秋津とは日本の意味ですね。古代文明の香りがする魅力的な地名だなあと、通りかかる度に思っていました。この地でも、かつては秋津穂が栽培されていたそうですが、コシヒカリのようなもっちりとした品種に人気が集まるようになると、それに比べてぱさぱさした食感で価格の安い秋津穂は衰退し、杉浦さんが栽培されるときはすでに栽培されていなかったそうです。
ところがこの秋津穂、病気に強く、倒れにくく、やや大粒で、酒米としては「微生物が入っていきやすい(故山本社長)」と、好適米なのだそうですよ。

もともと日本酒は得意ではなかった杉浦さんでしたが、栽培した秋津穂で醸造されたお酒を、タンクから汲んで呑ませてもらったときは「これが日本酒なのか!」と思うほどの美味しさに感動し、「続けよう!」と決意しました。

ここで里山の棚田について、杉浦さんのお話から。
「広範囲に棚田を利用するには、やっぱりお米。野菜を作るには手間がかかりすぎるのです。収益が低くても、お米なら作れます。しかも秋津穂は作りやすい。
山があって、里山があって、平野があります。里山の部分は、かつてはエネルギーも含めて全てが循環していました。それが今、どんどん荒れています。わたしのように就農する人は実際のところなく、後を継ぐ人もなく、耕作放棄地が広がっています。放棄された棚田には草がはえ、3年すると木が生えて、田圃に回復することは不可能になります。どうすれば、くいとめられるのでしょうか。とにかく、ここに人を呼びたい。そのために、無農薬でお米を作ってイベント化できないだろうかと考えました」

秋津穂の里プロジェクトはこうして発案されました。これを恐る恐る油長酒造に提案すると「おもしろいじゃないか」との返事が。また、杜氏の方も初めての無農薬栽培による秋津穂の醸造に、チャレンジしてくださったそうです。

これまで一人で営農されてきた杉浦さんでしたが、秋津穂の里プロジェクトをやってみて、「みんなでやればこんなに楽しいのか!」という発見がありました。農業は、一人でやると終わりの見えない程に時間がかかりますが、チームでやると驚くほどはかどり、しかも共に働いた共通体験が生まれ、収穫の喜びをわかちあうことができます。
プロジェクトは、杉浦さん自身の考えも変える作用があったようでした。今では、台湾などから滞在してファームを手伝う若者も集まるようになりました。農業の素人でも、人が集まればできるのだという驚きがあり、ホストする大変さはありますが、喜んでくれる笑顔を見ると楽しさが上回るそうです。


秋津穂の里プロジェクトは、一年だけの取り組みのつもりでしたが、「酒米づくりが人を呼ぶことにつながっていくのでは、、、」という手応えがあり、参加者からも「来年もぜひ」という声があり、今年も行われるそうです。
一年を通しての参加に限られ、田植え、草取り、収穫までを、「来れるときだけ手伝う」というしくみ。参加費もなく、報酬もありません。ただ、うちあげでかわす一献は格別の味わいです。

このプロジェクトの特徴は、草刈りへの参加が条件であること。田植えや収穫だけをイベント化する例はあるそうですが、「必ず草刈りをしてください。草の生える期間中、来れる時だけでいい。ふらっと来てもらえればいい」というゆるいミッション。無農薬でもっとも大変なのは、夏場の草刈り。「僕一人でやっていたら、たぶん死んでいたでしょう(笑)」。

また、わたしたち街に暮らす者にとっては、日頃土に触れる機会がなく、さりとて家庭菜園や就農も実際のところハードルが高いものです。お金を使うだけの遊びをするよりも、こうした機会に土に触れることができるなら、なんだか楽しそう。筆者も田植えや草刈りを体験したことがありますが、日頃使わない筋肉が痛み、それが不思議と気持ちが洗われるようでした。滝のように汗をかき、へとへとになるのですが、水筒の水が信じられないほどに美味しく、風がそよぐと感謝の気持ちさえ湧いてくるのです。そういうわけで、今年は、ぜひとも参加させていただこうと思う次第です。

(余談ですが次号33号でも「援農」をキーワードとした記事を掲載予定です)

秋津穂の里プロジェクトに興味にある方は、杉浦さんまでお問いあわせください。
https://www.facebook.com/sugifarm(メッセージからご連絡ください)
ブログはこちら http://gamba-orgfarm.jugem.jp/

変わって二番手は、登社長。
100年続く天理市内の酒店。かつては注文を聞いて運搬するだけでよかった酒店は、大手量販店やコンビ二でも酒が買えるようになってから「このままではいけない」と危機感を感じるようになりました。そこで考えたのは、「店に来てもらえる酒店」。外観や内装をおしゃれにして、地酒にこだわりました。そしてある時、奈良は日本酒の発祥の地と知り、酒蔵をまわって酒を研究しはじめると、蔵のタンクからくみ出したばかりの無濾過生原酒のおいしさに驚きました。そこから、奈良の地酒に力をいれ、「本当に美味しいと感じた酒、本当に応援したいと思った酒蔵」にこだわり、冷蔵庫で管理し、お客様には無料で試飲もしてもらい、きちんと説明してから買っていただく現在のスタイルができていきました。無濾過生原酒は酵母が生きており、扱いに配慮が必要です。蔵のひとつひとつにドラマや物語があります。だからこそ、常温の棚にただ並べるだけでは売ることができない酒。奈良の地酒の蔵元と信頼関係を築き特徴を熟知している登酒店だからこその酒を売りたいとのことでした。
10年前に息子さんが帰ってこられ、ともに店を切り盛りしながら充実したHPを構築されています。このHPを詳しく読むだけでも、奈良の地酒を語れるほどになるかもしれまません。
登酒店
http://www.nobori-sake.com/

店で売る酒はすべて試飲するという登酒店。開栓した酒をお客様にも試飲用として提供されているというわけなのですね。

天理駅からも歩いて近いので、お店に行かれる場合はぜひ電車がおすすめ。そして試飲してみてください。同店おすすめの酒の美味しさに、日本酒の概念が変わることでしょう。


勉強会のあとは、ぷろぼの食堂で懇親会が行われましたが、筆者は所用で欠席。参加できれいてば、杉浦さんの田圃でできた秋津穂から醸した特別酒「笑う門には福きたる」が呑めたのですが。

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再会した登さん、杉浦さんにごあいさつ。ありがとうございました。